四面を海で囲まれた日本では、輸出入貨物量の99.5%を海上輸送が担っており、海運、造船などの海事産業は日本の経済・社会と国民生活を支える基幹産業であり、かつ、社会インフラです。同時に日本の経済安全保障の最前線を担う極めて重要な産業です。
一方、近年海事産業を取り巻く国際情勢は急激に流動化・不確実化の度合いを強め、また、世界的に海事分野の大きな変革期を迎える中で、日本の海事産業は迅速かつ的確な対応を求められています。
2026年2月末からの米国及びイスラエルによるイランに対する攻撃とその報復攻撃により、ホルムズ海峡が事実上封鎖状態となっており、日本関係船舶が45隻、日本人船員が20人(4月1日現在)、ペルシャ湾内に停泊を余儀なくされ、正に危機的な状況にあります。また、輸入原油の9 割以上を中東地域に依存する日本にとって、エネルギーの安定供給の面からも極めて深刻な状況です。
この数年を振り返ってみましても、海事産業は、ロシアによるウクライナ侵攻や、中東情勢の悪化による紅海及びスエズ運河の航行の自粛と喜望峰への迂回など、国際情勢の急激な悪化や地政学リスクの顕在化により、困難な局面に度々晒され、かつてなく厳しい状況に置かれています。
他方、海事分野の脱炭素化につきましては、昨年MARPOL 条約の改正案の採択が延期となり、2026 年11月に国際海事機関(IMO)において、改めて採択のための審議が行われることになっています。
また、海事人材の不足は一層深刻化しており、計画的な海事人材の確保・育成や、GX・DXに対応した高度な海事人材の育成等が不可欠な状況です。
日本海事センターでは、これらの重要課題について議論するため、2024年12月に当センターに産官学の代表者30名からなる「海事産業委員会」を新たに設置し、日本の海事産業の競争力強化方策等について精力的に検討を進めてきました。
この検討過程で、2025年4月に米国通商法301条に基づく中国建造船舶等に対する入港料徴収措置の発表や、日米関税交渉の一環として10月に金子国土交通大臣と米国ラトニック商務長官による「日米間の造船についての協力に関する覚書」への署名、11月には「日本成長戦略本部」が設置され、「造船」、「港湾ロジスティクス」、「海洋」が戦略分野とされ、12月には「造船業再生ロードマップ」が公表されるなど、海事をめぐり様々な動きがありました。また、2026年2月には米国政府から「Maritime Action Plan」が発表され、今後の動向にますます目が離せない状況です。
海事産業委員会ではこれらの動きを踏まえつつ、委員会を9回開催し、さらに、委員会の下に設置した「内航海運ワーキンググループ」を4回開催して、広範かつ精力的に議論を重ね、2026年3月10日に「日本の海事産業の再興に向けた提言」として、その成果をとりまとめ、翌日には、この提言を金子国土交通大臣に直接お渡しして、政府として日本の海事産業の再興に向けて強力に取り組んでいただくようお願いしたところです。
日本海事センターは海事分野の中核的な公益財団法人として、国内外の動向に的確に対応しつつ、日本の海事産業の振興を目的として、専門的な研究調査を行うとともに、産・官・学連携のプラットフォームの役割を果たし、さらに海事関係団体の公益活動に対する助成や海事図書館の運営などを行っています。
国際政治・経済情勢が流動化・不確実化する中、当センターとしては、今後とも、国際的な活動の充実を図りつつ、海事関係の諸課題を的確に把握し、海事産業界、行政当局及び教育・研究機関等との連携・協働を一層強化して、日本の海事産業の復興と経済安全保障への貢献、海事分野の公益事業の進展、海事思想の普及と海事の重要性についての社会・国民の理解の増進に努めてまいります。
当センターのこれらの取組及び活動に対する皆さまのご理解とご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
2026年4月