JMC海事振興セミナー

Seminar

第13回JMC海事振興セミナー
「地政学リスクの高まりと安定的な海上輸送の確保-その1-」

開催概要  2022年2月のロシアのウクライナ侵攻、それに伴う米国やEUによるロシアに対する制裁措置の発動、2023年10月に始まったハマスによるイスラエルへの越境攻撃とイスラエル軍によるガザへの侵攻、そしてそれに関連した同年11月のフーシ派によるGalaxy Leader号の拿捕など、外航海運業は、昨今の国際社会における地政学リスクの高まりに直面しています。外航海運業はこれらのリスクを受け止めながら、安定的な海上輸送を提供してきており、また引き続き提供していく必要があります。
 今回のセミナーでは、ロシアに対する制裁リスクを中心に、外航海運とそれに不可欠な海上保険が、安定的な海上輸送確保のために、どのように対応しているかを紹介しつつ、抱えている課題や、将来に向けた課題などについて意見交換をします。
日時 2025年12月22日(月) 14:00 ~ 16:00
開催方法 オンライン(Zoomウェビナー) 
開会挨拶

(公財)日本海事センター会長 宿利 正史

開会挨拶

開会挨拶動画

総論

龍谷大学法学部教授 山田 卓平 氏
「ロシアに対する制裁の現状」

講演資料

講演動画

各論①

日本郵船(株)法務・フェアトレード推進グループ専門官 橋本 隆明 氏
「外航海運による制裁リスクへの対応-リスク・マネジメントの観点から」

講演資料

講演動画

各論②

東京海上日動火災保険(株)フェロー兼コマーシャル損害部専門部長 久保 治郎 氏
「戦争リスク・制裁リスクと海上保険-現状と課題」

講演資料

講演動画

パネルディスカッション質疑応答

モデレーター:慶應義塾大学法学部教授 南 健悟 氏
パネリスト:山田 卓平 氏、橋本 隆明 氏、久保 治郎 氏

講演動画

セミナー動画
(通し)
https://www.youtube.com/watch?v=h1fryti8zjE

当日のプログラム

講演者 略歴

龍谷大学法学部 教授
山田 卓平 氏

京都大学法学部卒業(1996年)、京都大学大学院法学研究科博士後期課程中退(2000年)、神戸学院大学法学部講師(2000~2003年)、同准教授(2003年~2010年)、同教授(2010年~2011年)を経て、2011年より現職。博士(法学)(京都大学)。主な著作として、『概説国際法』(共著)(有斐閣、2024年)、『国際法[第2版]』(共著)(有斐閣、2022年)、『国際法における緊急避難』(有斐閣、2014年)など。

日本郵船株式会社 法務・フェアトレード推進グループ専門官
橋本 隆明 氏

1993年神戸大学法学部卒業、同年日本郵船株式会社入社。
主に法務・コンプライアンス部門に携わり、2024年10月より現職。

東京海上日動火災保険株式会社 フェロー兼コマーシャル損害部専門部長
久保 治郎 氏

1986年 京都大学法学部卒業、東京海上日動火災保険入社、2021年同社フェロー兼コマーシャル損害部専門部長(法規・約款担当)。主な社外活動として、東京海洋大学非常勤講師(2011年~2014年)、早稲田大学非常勤講師(法学研究科2015年~2017年)・客員教授(海法研究所2018年~)、万国海法会海上保険常設委員会委員(2011年~)、万国海法会共同海損常設委員会委員(2012年~)、国際海上保険連合Salvage Forum委員(2011年~)、日本海運集会所海難救助報酬斡旋委員長(2012年~)、日本海損精算人協会会長(2017年~2022年)、日本海事センターIMO法律問題委員会委員(2021年~)、国土交通省自動運航船検討会委員(2024年~)。近著として、「逐条解説2016年ヨーク・アントワープ規則-共同海損の理論と実務」(2022年)、「船舶保険の損害対応実務」(2022年)(共著)。日本海法学会・小町谷賞(実務家の部)(2017年)、上記共著書籍で住田海事奨励賞(2022年)。

慶応義塾大学法学部 教授
南 健悟 氏

静岡大学人文学部卒業(2005年)、北海道大学大学院法学研究科博士後期課程修了(2010年)、博士(法学)。旭川大学経済学部助教(2009年~2010年)、小樽商科大学商学部准教授(2010年~2017年)、日本大学法学部准教授・教授(2017年~2024年)を経て現職。法務省民事局調査員(2022年~)、国土交通省海事局知床遊覧船事故対策委員会・同フォローアップ委員会委員(2022年~)、国土交通省交通政策審議会委員(2023年~)。著作として、”Recent Development of MASS and Guidelines in Japan”, The Asian Business Lawyer, Vol. 31, 97-114(2024)、「自動運航船の登場により船舶衝突の民事責任の原則は変わるのか?」日本航海学会誌NAVIGATION220号16頁~23頁(2022年)、「自動運航船と衝突責任」海法会誌復刊64号85頁~108頁(2021年)。

第13回JMC海事振興セミナーの開催結果(概要)

1.開催の概要

2025年12月22日、東京都千代田区麹町の海事センタービル4階会議室において、第13回JMC海事振興セミナーを開催した。 450名を超える視聴登録をいただき、制裁リスク等への外航海運、海上保険の対応への関心の高さが窺えた。


2.講演内容

【開会挨拶】 (公財)日本海事センター 会長 宿利 正史 (別添参照)


(1)「ロシアに対する制裁の現状」

龍谷大学法学部 教授 山田 卓平 氏


2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて取られているロシア制裁が、国連安全保障理事会による措置ではなく、有志国によってとられた独自制裁であること、2014年のクリミア危機の措置に対する追加的措置であること、制裁は基本的に自国民に義務を課すものであるが、米国は米国法人の外国子会社や米国の金融システムの利用者などに義務を課す、いわゆる二次制裁又は域外適用といわれる措置を講じていることなどが説明された。また、その効果については、ロシアの実質GDPの減少は見られるが、ロシア軍がウクライナから撤退したわけではないこと、制裁に参加している国が限られている中で効果を上げようと思えば、ロシアのエネルギー輸出による収入を減らすことが重要であることなどが語られた。


(2)「外航海運による制裁リスクへの対応-リスク・マネジメントの観点から」

日本郵船(株)法務・フェアトレード推進グループ専門官 橋本 隆明 氏


海運会社から見た米国およびEUによるロシア制裁について概観した。また中国が制裁の域外適用に対抗する規則や反外国制裁法などを制定していることが指摘された。米国の制裁については、SDNリスト記載の団体・個人との取引だけでなく、SDN対象者により直接又は間接に50%以上の持ち分を保有されている企業との取引も米国政府による制裁の対象となるとする50%ルールについて注意喚起がなされた。また米国やEUなどによるロシア産原油に対するプライスキャップ導入で、特定の価格を超えたロシア産原油を輸送する船舶に保険サービスを提供してはならないことになり、シャドーフリートが生み出されていることやシャドーフリートの実態、活動について説明がなされた。加えて、米国は「米国財務省外国資産管理局(OFAC)により作成された経済制裁遵守体制のためのガイダンス」など8つのガイダンスを出していること、その中には海運業向けのガイダンスもあること、EUも経済制裁順守プログラムやガイダンスを出していること、なによりリスクベースアプローチが大切であることが説明された。最後にOFACが公開している事例を紹介し、コンプライアンスプログラムの導入、実践の重要性が強調された。


(3)「戦争リスク・制裁リスクと海上保険-現状と課題」

東京海上日動火災保険(株)フェロー兼コマーシャル損害部専門部長 久保 治郎 氏


【戦争リスク】

戦争リスクについては通常保険者免責であるが、戦争保険特別約款等により復活担保される。船舶戦争保険は対象船舶に物理的な損傷がない場合でも推定全損とされる特例がある。1981年に船舶戦争保険再保険プールが設立され、1996年に日本船舶再保険プールに統合された。船舶戦争保険の特徴として、航路定限、割増保険料、予告解除(通常7日前、五大国間の紛争があれば72時間前)、自動終了がある。

【経済制裁リスク】

保険者が経済制裁に抵触しないための対応としては、契約の当事者・受益者、被保険船舶のスクリーニング、船舶が高リスク国・地域に入域する際には保険契約者に経済制裁に抵触しないことの確認を行ったことを示す資料の提供の要請、事故の際には衝突船主、救助業者、修繕業者、損害鑑定人、海損精算人等のスクリーニング等が必要。船舶が違法行為に使用されれば保険金は支払われず、制裁等に抵触する場合も保険金は支払われないとする特別条項も設けられている。保険事故対応では、保険者が発行する支払保証状(LoU)が大きな役割を果たすが、相手側が制裁当事者である場合、LoUを提供できない、LoUを相手側から入手できないという問題が生じ得る。さらに元受保険者と再保険者に適用される経済制裁の違いにより経済制裁ギャップが生じ、元受保険者による再保険調達が困難になる事態が生じ得る。また、元受保険金の支払い後に再保険金の回収ができないという事態もあり得る。このような経済制裁ギャップがイラン経済制裁で生じ、イラン産原油輸送タンカー特措法が制定された。


3.パネルディスカッション及び質疑応答

モデレーター:慶應義塾大学法学部教授 南 健悟 氏

パネリスト:龍谷大学法学部 教授 山田 卓平 氏

      日本郵船(株)法務・フェアトレード推進グループ専門官 橋本 隆明 氏

      東京海上日動火災保険(株)フェロー兼コマーシャル損害部専門部長 久保 治郎 氏


モデレーター、会場および視聴者から以下のような質問が出され、質疑応答が行われた。

・中国やインドといった例が出されたが、ロシア制裁に参加していない国は、どのような理由で参加していないのか。

・欧州でロシアの凍結資産の活用という動きがあるが、国際法という観点からどのような問題があるか。

・ダークフリート、シャドーフリートについて、海運会社としてビジネス上どのような懸念を有しているか。

・米国、EUの経済制裁では、米国政府が推奨する施策、ガイダンス、EUが推奨する施策が出されているが、このような施策、ガイダンスは、経営上、法律上、どのような位置づけを持っているのか。海運会社では、どのように位置づけているのか。

・ダークフリート、シャドーフリートが事故を起こした場合、海上保険という観点からは、どのような問題があるか。

・国際社会における平和と安全の維持という安全保障と、経済安全保障、エネルギー安全保障、場合によってはこれらが抵触することがあるが、国際法学はこれらをどう調整するのか。またユニラテラルな制裁が発動される中、日本の思惑、利益を考えた場合に、日本は、安全保障、経済安全保障、エネルギー安全保障をどのように調整すると考えられるか。

・ダークフリート、シャドーフリートへの対応として、日本政府に求めること、要請することがあるか。

・ダークフリートやシャドーフリートは海賊となり得るか。


(注)以上の講演の結果概要につきましては、主催者側があくまで速報性を重視して作成したものですので、発言のニュアンス等を正確に再現できていない個所、あるいは重要な発言が欠落している箇所等がある可能性があります。つきましては、発言の詳細や正確な発言を確認したい場合は必ずYouTubeを視聴してご確認いただくようお願いします。また、本結果概要の無断での転載等は控えていただくようお願いいたします。