第14回JMC海事振興セミナー
「グローバル・サプライチェーンの多様化と強靭化」
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| 開催概要 | コロナ禍、ウクライナ危機、世界は度重なるグローバル・サプライチェーンの危機を経験し、多くの荷主や海運を含む国際物流企業は、安定したグローバル・サプライチェーンの構築を追求しています。そして、現在は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、世界は大きな危機に直面し、ユーラシアにおける代替ルートの必要性を現実の課題として突き付けられています。現在ユーラシアでは、海上輸送だけではなく、第三の選択肢やBCPとして考えられてきた中欧班列とのバランスの取れた協調的輸送が重要だと考えられるようになっており、また、カスピ海ルートやASEAN・中国クロスボーダー輸送と中欧班列との連携サービスが登場しています。北米輸送においては、パナマ運河の代替ルートとしてのメキシコ回りなど様々なルートが検討されています。南米輸送においては、南米大陸横断鉄道が建設されつつあります。さらに、世界各国で北極海航路の構築に向けた様々な動きが出ています。 本セミナーでは、世界のグローバル・サプライチェーンに関する動向について、政府・フォワーダー・船社をお招きし、それぞれの立場でのグローバル・サプライチェーンの多様化、強靭化の取り組みを取り上げ、それらの背景や将来的なグローバル・サプライチェーンについて、幅広く議論します。 |
| 日時 | 2026年6月29日(月) 14:00 ~ 16:00 |
| 開催方法 | ハイブリッド形式(Zoomウェビナー併用) |
| 開会挨拶 | |
| 講演① | |
| 講演② | |
| 講演③ |
![]() エムエスシー日本合同会社社長 甲斐 督英 氏 ※講演資料は講演者のご意向により掲載はございません。 ※講演動画は講演者のご意向により掲載はございません。 |
| パネルディスカッション質疑応答 |
![]() モデレーター:(公財)日本海事センター客員研究員 福山 秀夫 |
| セミナー動画 (通し) |
https://www.youtube.com/watch?v=bPEwSGSvdXA |
講演者 略歴

国土交通省 物流・自動車局物流政策課 国際物流室 室長
牧野 武人 氏
1999年九州大学工学部卒業、同年運輸省入省。
主に港湾分野に携わり、2024年4月より現職。

Yusen Logistics (SAO Region)CO.,Ltd. Ocean Freight Forwarding Department Globa Headquarters, South Asia and Oceania
Director 鈴村 崇 氏
2003年サンフランシスコ州立大学創造芸術学部卒業。2007年(株)ジェーアイティー(現:郵船ロジスティクス(株))入社 東京支店NVOCC営業部配属。2011年米国法人・国際貨物輸送部シカゴ・デトロイト支店駐在。2017年海上貨物部NVOCC営業課長。2021年(株)トランスコンテナ出向営業企画室営業管理チーム長、2022年南アジア・オセアニア極本社 海上輸送事業部長 (現在に至る)。

エムエスシー日本合同会社 社長
甲斐 督英 氏
1994年に早稲田大学商学部を卒業後、住友建機、P&O Nedlloyd Japan K.K.を経て、MSCジャパンには1999年の発足と同時に入社。2010年にエムエスシージャパン(当時)代表取締役社長就任。現在は、エムエスシー日本合同会社社長。

(公財)日本海事センター 客員研究員
福山 秀夫
1980年九州大学卒業、同年 山下新日本汽船入社。1991年日本郵船に移籍、2004年日本郵船北京事務所代表、中国における定期コンテナ船輸送等に関り、2005年中国物流研究会に入会し、本格的に中国物流の研究を開始。2020年日本郵船退職、同年(公財)日本海事センター企画研究部客員研究員、日本海運経済学会、日本港湾経済学会、日本物流学会、日本貿易学会会員。
第14回JMC海事振興セミナーの開催結果(概要)
開催の概要
令和8年6月29日、東京都千代田区麹町の海事センタービル4階会議室において、第14回JMC海事振興セミナーを開催した。
当日は、「グローバル・サプライチェーンの多様化と強靭化」をテーマにZOOMを活用したオンライン配信を実施し、約400名が視聴し、盛況裡の開催となった。
2.講演内容
【開会挨拶】 (公財)日本海事センター 会長 宿利 正史
◎「グローバル・サプライチェーンの多様化について」
国土交通省物流・自動車局物流政策課国際物流室室長 牧野 武人 氏
「グローバル・サプライチェーンの多様化と強靭化」については、荷主・物流事業者ともに関心はあるものの何らかの対応を行っている企業は決して多くはないのが現状。
国際物流の多元化・強靱化に向けた国土交通省の取組について紹介するとともに、今後の方向性についてお話ししたい。
1.テーマの背景説明
・国土交通省では2017年度から2021年度にかけて、シベリア鉄道を利用したヨーロッパへの貨物輸送についての調査や実証輸送を継続的に実施してきたところである。
・しかし近年、世界規模での感染症の流行やロシアによるウクライナ侵攻、紅海・アデン湾での航行船舶に対する攻撃、中東情勢の緊迫化等に伴いグローバル・サプライチェーン全体の脆弱性と供給リスクが顕在化したことを踏まえ、その多元化と強靱化を進める必要性が高まってきている。
2.実証輸送・ビジネスツアーの実施
・国際物流の多元化・強靱化に向け、我が国の荷主・物流事業者と連携して従来の輸送手段・ルートの代替又は補完に向けた実証輸送を行い、「中央回廊・カスピ海ルート」等の新たな BCP ルートの開拓を進めてきた。
・実証輸送の実施にあたっては、リードタイムやコスト、輸送品質、環境負荷等、従来の輸送手段・ルートと比較して検証が必要となる要素を整理し、実証輸送の参加者とともにとりまとめを行った。
・2024年度に実施した中央回廊の実証輸送では、積み替え地点での貨物滞留、特にカスピ海の港湾において冬期の荒天、特に強風の影響により長期間の貨物滞留が見られた。
・「中央回廊・カスピ海ルート」はこれまであまり利用されておらず、回廊沿いのコンテナ積み替え施設や物流事業者等に関する情報が不足していたため、2025年11月に官民合同でカザフスタン・アゼルバイジャン・ジョージアを巡るビジネスツアーを実施し、現地の物流施設の状況を確認するとともに、関係政府機関や現地物流事業者との意見交換を行った。
3.官民協働による情報共有・検討体制の整備
・「グローバル・サプライチェーンの多様化と強靭化」は個社による取組だけでは限界があり、代替輸送手段・代替ルートに関する関係者間での知見の共有や情報交換、課題に対する共同検討が必要。しかし競合する同業種の民間事業者同士での情報共有は困難。こうした問題に対処するためには官民協働による情報共有・検討体制の整備が求められる。
実証輸送の成果の関係者間での幅広い情報共有や新規ルートの利用に向けた協議等の場となる官民コンソーシアムを2025年12月に立ち上げたところであり、関係事業者における平時からの備えや意識醸成、相互連携を促していく。
4.グローバル・サプライチェーンの多様化と強靭化に向けて
・実証輸送やビジネスツアー、官民コンソーシアムなどの取組について、わが国は国際交通フォーラム(ITF)をはじめとする国際会議や会談の場において、関係国や国際機関等とも連携した情報発信や情報共有を強化しており、国際物流ネットワークの多元化・強靱化に向け、海外の物流拠点や物流システム等、ハード・ソフト両面にわたる多国間協力や投資の促進を図り、取組の実効性を高めていくこととしている。
◎「郵船ロジスティクスのユーラシアのグローバル・サプライチェーン戦略-
ASEANメコン地域から欧州への複合一貫輸送サービスの取り組み」
Yusen Logistics (SAO Region) CO., Ltd. Ocean Freight Forwarding Department Global Headquarters, South Asia and Oceania Director 鈴村 崇 氏(バンコクよりZoom参加)
ASEAN諸国から欧州への貨物輸送は、海上・航空輸送が一般的な手段として利用されている。昨今の中東およびその周辺海域の情勢に起因した、喜望峰経由の迂回航路による海上輸送日数の増加、運賃高騰、海上コンテナの不足などによって安定したサプライチェーンの構築が危ぶまれる中、お客様に安心してご利用いただけるサービスを提供するため、当社はさまざまなソリューションを提案している。
当社は2023年より、ラオスと中国を結ぶ「中老班列」、ならびにベトナムと中国を結ぶ「中越班列」など、主にメコン地域を出発する鉄道を利用して貨物を輸送し、経由地となる中国の重慶では、コンテナごと「中欧班列」に積み替え、欧州までDoor-to-Doorでお届けする鉄道一貫輸送サービスの提供に力を注いできた。ASEAN諸国から欧州までの鉄道一貫輸送は、海上輸送ルート(喜望峰経由)と比較してリードタイムの短縮を可能とし、サプライチェーンにおけるBCP対策として有効で、さらに温室効果ガス排出量削減を叶えるグリーンソリューションとしても期待できるサービスである。当社はグローバルネットワークを駆使し、出発地と到着地だけでなく、経由地でもグループ従業員が一丸となってお客様の大切な貨物輸送をサポートしている。
また中国・欧州間鉄道輸送サービスより更に早い輸送をご希望のお客様には、最新の海上・航空運賃マーケットを勘案した上で、Sea & Air サービスの提供が可能である。いかなる発地国からも、海上輸送でシンガポール、ドバイ、バンクーバーなどに輸送手配し、その後保税貨物のまま航空輸送に切り替えて、欧州各地まで輸送する。
今回のセミナーでは、プレゼンテーションと、パネルディスカッションを通して実際の輸送実績を基にしたさまざまな話をさせていただく。
①:ベトナム鉄道と欧州を繋ぐ鉄道輸送サービス
ベトナム鉄道と中欧班列を組み合わせた一貫輸送により、海上輸送と航空輸送の中間サービスを提供する。
様々な要因により依然市況が読みづらい航空運賃と、出口の見えない喜望峰経由によるリードタイムの延伸を打開するヒントになることを期待している。
□■ ポイント
・ベトナム-欧州の鉄道サービス概要
・海上輸送よりトラッキングがしやすいGPSを用いた輸送可視化
・喜望峰経由の迂回海上ルートに比べて、輸送日数を約18日短縮可能
・同迂回ルートと比較して、CO2排出量を約半減することができ、ESG対応にも有効
・定期輸送だから見えてきた課題と改善策
②:中国~ラオス鉄道と欧州を繋ぐ鉄道輸送サービス
中国ラオス鉄道は昆明とビエンチャンを結ぶ国際高速鉄道で、2021年12月に開通した。当社は中国主要都市とタイ、ベトナム、ラオス、カンボジアなどのメコン地域を中心としたASEAN諸国を、中国ラオス鉄道とトラックで効率的につなぐ複合一貫輸送サービスの拡充を進めています。ASEAN諸国から欧州向けの出荷についても、中国ラオス鉄道と中欧班列を組み合わせた鉄道輸送サービスの提供が可能である。
□■ ポイント
・中国・ラオスを結ぶ高速鉄道を利用した、鉄道+トラックの複合一貫輸送サービス
・タイ、ラオス、カンボジアなどのメコン地域を、鉄道・トラックを用いて効率的に中国・欧州主要都市と接続
・集荷・通関・配送の一貫輸送だけでなく、GPS機能を用いた輸送状況の可視化も可能
・海上・トラック輸送混乱時のBCP対策、鉄道輸送によるCO2排出量を削減するESG対応としても有効
・ラオス発中国経由ドイツまでの複合一貫トライアル輸送のご紹介
③:シンガポール・ドバイ・バンクーバー経由Sea & Air サービス
当社は、アジア各国から欧州向け貨物について、シンガポール、ドバイ、またはバンクーバーを中継拠点としたSea & Air(海上+航空)による複合一貫輸送サービスを提供している。出発地からハブ港までを海上輸送、ハブから欧州主要都市までを航空輸送で接続することで、コストとリードタイムの最適化を実現した。ASEAN、中国、日本など幅広い出荷拠点に対応し、安定した輸送ネットワークを構築した。
□■ ポイント
・シンガポール/ドバイ/バンクーバーのグローバルハブを活用した、海上+航空の複合一貫輸送サービス
・アジア主要港から中継拠点まで海上輸送、欧州主要都市まで航空輸送で迅速に接続
・純航空輸送に比べたコスト削減と、海上輸送に比べたリードタイム短縮を両立
・集荷・通関・積替・配送まで一貫対応、輸送状況の可視化(トラッキング)にも対応
・海上輸送遅延やスペース不足時の代替手段としてのBCP対策、CO2排出抑制を意識した輸送設計も可能
・シンガポール/ドバイ/バンクーバー経由 欧州向けSea & Airトライアル輸送のご紹介
◎「グローバル・サプライチェーンの文脈でのコンテナ海運の役割とその強靭化」
エムエスシー日本合同会社社長 甲斐 督英 氏
1.グローバル・サプライチェーンを定義する – 必也正名乎(必ずや名を正さんか)
・原材料の調達から、製造、物流、流通、販売を経て最終消費者に至るまでの一連の供給プロセスを、複数の国・地域にまたがって構築・管理する国際的な供給網。
・単一の国に依存せず、世界各地の拠点や企業が連携して、製品・サービスを効率的かつ継続的に市場へ供給する仕組み。
・コスト最適化だけでなく、供給安定性、リスク分散、レジリエンス(回復力、復元性、強靭化)を含む概念。
2.グローバル・サプライチェーンの中でのコンテナ海運の役割
・荷主は多様な輸送網を選択肢として持つ。
・コンテナ海運はその多様な輸送網の中の一選択肢。
・複数の国にまたがる輸送を担っている点において、船会社はそもそもがグローバル・サプライチェーンの担い手である。
・MSCは海運会社であり、海上輸送が我々の使命。海上輸送の延長線上に内陸の輸送や付随したサービスがある。
3.MSCの立場での国際的な供給網・物流の強靭化とは
・柔軟性と即応性
・有事の対応策の策定が、柔軟性、即応性を阻害する可能性あり。
・有事の対応策を事前に持つことは大事だが、何かが起きたときにこうする、と決めないことが大事。
・目の前に現れた事象を基に、柔軟に即座に対応策を策定し、即座に実行する。
4.柔軟な即応の事例
・スエズ運河回避
・米国通商法301条に基づく米国通商代表部の中国建造船への入港料の課徴
・ホルムズ海峡封鎖への対応
5.欧州・アフリカその他地域での内陸輸送網
【パネルディスカッション】
モデレーター : 日本海事センター客員研究員 福山秀夫
パネリスト : 講演者3名
◎モデレーターの冒頭あいさつ
本日モデレーターを務めます日本海事センター客員研究員の福山です。私の専門は、海運・国際複合輸送、グローバル・サプライチェーンです。さて、グローバル・サプライチェーンは、コロナ禍、ロシアのウクライナ軍事侵攻、紅海でのフーシ派による商船への攻撃、パナマ運河通航制限、ホルムズ海峡の封鎖と度々危機に直面してきました。ホルムズ海峡の封鎖の際には、原油の輸入ばかりがメディアに報じられていますが、コンテナ国際輸送のサプライチェーンも危機に直面しています。チョークポイントが危機に直面しているという説明はよく聞きますが、海上輸送を含めた物流、グローバル・サプライチェーンを止めないための具体的な対策については、殆ど取り上げられていません。
このパネルディスカッションでは、まず、登壇者の方に私から質問を致しますので、簡潔な回答をお願い致します。次に、登壇者の皆さんが、自分のお立場からの視点で、他の登壇者の報告に対し質問していただき、全体を通じて、グローバル・サプライチェーンを止めないための具体的な対策を明らかにしたいと思います。
(福山)最初に、牧野様にご質問いたします。
①様々な代替ルートがありますが、特に、カスピ海ルート(西2通道)に着目をしていると思うのですが、その理由と今後の具体的な活用方法などについてご教示ください。
②「多国間協力、投資促進、取り組みの実効性を高めていく」とのご説明がありましが、今後の取り組みを具体的にご教示ください。
(牧野様の回答)
(回答①)中央回廊カスピ海ルートは、東アジア~欧州間の海上輸送の代替輸送ルートとして着目しています。リードタイムやコストの面で改善の余地はあるものの、ロシアやイランを経由しないため、保険が適用され、レピュテーションリスクのないルートであると認識しております。
将来的には欠品時や生産・販売計画の変更時に柔軟に対応できる日欧間の海上輸送ルートの代替補完ルートとしての活用を期待しております。
(回答②)中央回廊カスピ海ルートは多くの国を通過するため、税関のデジタル化やシングルウィンドゥ化、手続きの共通化が必要です。中央アジア地域における物流・輸送ルートの利便性向上や貿易円滑化を目指し、わが国は外務省・財務省関税局・JICAが連携して各国税関職員への研修実施や、国境の税関施設における大型X線検査装置の整備などの支援を行っています。一方、ADBは、「中央アジア地域経済協力(CAREC)プログラム」を通じて、国境を越えたペーパーレス貿易や通関のデジタル化、税関職員の能力向上の推進など、中央アジア諸国の税関手続きの近代化と貿易円滑化を強力に支援しており、わが国は引き続きADBと連携してこの分野での支援を進めます。また、物流事業者による現地への進出に対しては、JOINによる現地法人設立の際、共同出資による初期リスク低減や役員・技術者派遣等の支援を行ってまいります。
(福山)
牧野様、ありがとうございました。政府もロシア回避のカスピ海ルートが、レピュテーションリスクのないルートであるとして、官民一体型の取り組みにしたいということですが、大いに期待したいと思います。次に、鈴村様にご質問いたします。
①荷主のグローバル・サプライチェーン再構築に対する要望について、運賃、コスト、リードタイム、安定性とBCPへの対応などがポイントになると思いますが、どのように分析しているのかご教示ください。
②郵船ロジスティクスが、中越班列・中老班列・ASEANエクスプレス+中欧班列サービスを構築した背景、日本政府の協力、中国鉄道との交渉や構築に動いた条件等をどのように検討したのかなどをご教示ください。
(鈴村様の回答)
(回答①) 現在、荷主のサプライチェーン戦略は「コスト最優先」から「コスト・リードタイム・安定性を総合評価する全体最適」へとシフトしています。特に近年は地政学リスクや港湾混雑の影響から、「安く運ぶ」よりも「止めずに確実に運ぶ」ことが重視され、安定性とリードタイムの優先度が高まっています。また、運賃だけでなく欠品や在庫増加を含めたトータルコストでの判断が一般化しています。こうした背景から、サプライチェーンの多様化・強靭化ニーズは高く、海上輸送を主軸に鉄道やSea & Airを組み合わせる“ポートフォリオ型運用”が主流です。鉄道は中間リードタイムの補完、Sea & Airや航空は緊急対応として位置づけられ、平時から一定量を運用することでBCPの実効性を確保する三層構造が重要となっています。
(回答②)本サービスは当社単独で構築したものではなく、中国国鉄や各地域プラットフォーマーが提供する既存の鉄道ネットワーク(中欧班列・中老班列・中越班列等)を基盤に、当社が国際一貫輸送として設計・商品化したものです。インフラは公共、サービスは民間競争という構造下で、現地パートナーや通関業者と連携し、輸送枠確保や運用構築を行っています。日本政府の関与はなく、基本は商業ベースでの展開です。背景には、中欧班列の市場拡大と運行安定化、海上輸送混乱による代替需要の増加があります。一方、国境通関や規格差、各国制度の違いへの対応、安定したリードタイム確保などが大きな課題であり、実運用を通じて精度向上を図りながらサービスを確立してきました。
(福山)
鈴村様、ご回答どうもありがとうございました。「物流を止めない」という視点からの複数ルートの組み合わせによる全体最適の構築の重要性という点、関係者との連携強化がサービス構築の基本であるという点が、よく理解できました。あとに続く日系企業にとっても大変有益な情報となると思われます。次に、甲斐様にお尋ねいたします。
①現代は、コンテナ輸送が誕生した70年前とは異なり、Door to Doorのサービス、スルーB/Lを発行し国際複合一貫輸送を行う時代となっていますが、近年のように、地政学的リスクが発生している状況下、荷主に対しては、どのようなサービスを戦略的に展開することを考えておられるのか、ご見解をお伺いいたします。
②資料では、グローバル・サプライチェーンの定義と供給網・物流の強靭化について、説明されていますが、これは、「レジリエンス(復興力)」や「アジリティ(俊敏性)」が重要性を持つということを言われていると思います。2020年コロナ禍以降、MSC様が船会社として、グローバル・サプライチェーンの担い手として、最大限の注力をされてきたことはどのようなことですか。
(甲斐様の回答)
(回答①)船会社のDoor to Doorサービスが急に言われるようになった背景は、船会社からロジスティックオペレーターを目指す会社が出てきたからだと認識しています。当社は20年以上前からDoor to Door のサービスの提供を行っています。その基本はアセットを持ってサービスを提供するというもの。MSC GROUP内に内陸輸送、鉄道輸送、ターミナル運営をする会社を持っています。
講演資料にもあるように、現出した状況での最善策をその時々で策定し航路網の再編を行うことを最重要視しています。海上輸送を止めないこと、すべての港間での輸送能力を一定程度担保することがコンテナ海運の役割であり、千隻以上の船隊を誇るエムエスシーはその役割の先頭に立たなければなりません。
コンテナ海運を取り巻く状況は日々変化しています。それに合わせて当社は即応するわけですが、この即応による航路網の再編が、トランジットタイムの伸縮や供給量の増減つまりは海上運賃の上昇や下落があり得ることは各荷主ともある程度の覚悟をすでにお持ちです。その中で我々に求められていることは、その背景の説明責任です。変更の理由を正しく説明することによって、過去現在未来の船会社の行動に一貫性を感じて納得してもらうことが、一過性の信頼ではなく、長期の信頼を得る近道だと思っています。
(回答②)繰り返しになりますが、現出した状況での最善策をその時々で策定し航路網の再編を行うことに最大限注力しています。海上輸送を止めないこと、すべての港間での輸送能力を一定程度担保することがコンテナ海運の役割であり、千隻以上の船隊を誇るエムエスシーはその役割の先頭に立たなければなりません。
(福山)
甲斐様ありがとうございました。海上輸送を止めないこと、すべての港間での輸送能力を一定程度担保することがコンテナ海運の役割という視点が、海運のグローバル・サプライチェーンの構築に対し、荷主からの信頼を得られるポイントであることよくわかりました。
◎登壇者同士の質疑応答
(福山)次に、登壇者の方同士で質疑応答をお願いしたいと思います。まず、牧野様、他の登壇者に対し、政府の立場から、ご質問があればお願いいたします。
(牧野様より鈴村様への質問)
コンテナに取り付けたGPSによるトラッキングサービスを提供されているとのことですが、中国鉄道の厳しいチェックはどのようにしてくぐり抜けておられるのでしょうか。
(牧野より甲斐様への質問)
ホルムズ海峡の危機の際、いち早く湾岸地域への代替輸送の提案を打ち出されていましたが、常日頃よりこのような危機に対する頭の体操をされておられるのでしょうか。
また、通常の海上ルート(ジュベル・アリやダンマーム等)と比べて、代替輸送ルートのコスト/リードタイムはどの程度でしょうか。
(鈴村様の回答)
サービス開始前に弊社中国の鉄道輸送チームから、重慶の鉄道プラットフォーマー経由で、Yuxinou渝新欧(重庆)物流有限公司(中欧鉄道の運営会社)に確認したところ、GPSはコンテナの一部と判断し、申告は不要との見解に基づき、手配を継続しております。ポーランドやドイツでコンテナを開けての税関検査になったことが何度かありますが、GPSについて指摘を受けたことはありません。尚、同じく日系同業他社が西安発でGPSを付けて取り扱っておりますが、そちらの鉄道プラットフォーマーも同じ解釈で申告は不要で進んでおるとの理解でおります。
(福山)
鈴村様、大変貴重な発言ありがとうございます。本件に関しては、メディア等でも中国当局の規制は厳しいとの理解が一般的ですが、ご発言は実態として理にかなっていると思います。それでは、甲斐様、ご回答お願いいたします。
(甲斐様の回答)
単独運航であるため、航路設計の変更や更新は市場動向に即応し日常的に行っています。今回の危機への対応は、この日常的な航路網更新の延長線上にあります。そういう意味では、毎日頭の体操をしているといえます。ただし航路網設計は本社の一元管理です。
通常の海上ルート(ジュベル・アリやダンマーム等)と比べて、代替輸送ルートのコスト/リードタイムはどの程度かについて。
輸送日数の変化:
Khor Al Fakkan 経由:3週間程度から5週間程度へ
King Abdullah 経由:3週間程度から7週間程度へ
(福山)
甲斐様ありがとうございました。次に、鈴村様から質問をお願いいたします。
(鈴村様より牧野様への質問)
実証段階から商業ベースに移行する際、物流事業者が持続可能に参入できる採算ラインについて、どのように考えますか?
輸送コストが高いという課題が挙がっていますが、それを「誰がどのように負担する前提なのか」整理はありますか?
(牧野様の回答)
商業ベースによる輸送の際には、荷主が負担できる水準の運賃が採算ラインになっていることが持続可能な状態であると認識しております。確かに実証輸送の際には調査協力金無しにはとても運べない水準の運賃でしたが、普段使っていないルートに一見の荷主や物流事業者が貨物を持ってくれば、当然高めのスポット運賃をふっかけられ、ハンドリングも後回しにされることは容易に想像できます。このような代替ルートに対しても、普段から一定量の貨物を流すことにより、運賃も下がり、いざというときの輸送にも対応してくれるはずです。
物流事業者としてはいくつもの輸送オプションを持つことが、荷主としては普段からいくつもの輸送ルートを組み合わせることが、リスク回避になるものと考えます。
(福山)
牧野様、ご回答ありがとうございます。実証輸送を現実の商業ベースに落とし込む場合、実業の利益を挙げるために、コスト問題などを、どう考えるべきか、フォワーダーとしては気になるところです。非常に大事な指摘だと思われます。BCPと言っても普段から一定量は貨物を運ぶことが重要になることは理解できます。次に、甲斐様、船社からの視点で、ご質問あればどうぞ。
(甲斐様より牧野様への質問)
コンテナ海運において、他国での積み替えはその国の状況に左右されるため日本欧州間の直航便を誘致する、という国交省港湾局様の立場を常々伺っています。海上輸送の積み替えですら他国依存を少なくする立場の中、国交省様として税金を投入して複数国をまたぐ鉄道輸送物流の実証実験を行う整合性はどこにありますか。
(甲斐様より鈴村様への質問)
鉄道輸送は海上輸送と比べ輸送能力が小さいため、アジア欧州間の市場全体で海上輸送の代替となり得ない、つまりは特定荷主に対して鉄道輸送を提供することになると思いますが、鉄道輸送がより有効な貨物や物流はどういうものですか。
(牧野様の回答)
国際物流の多元化・強靱化に向けてはいくつかの側面があると認識しております。
欧州への直行便を維持・確保することで、特定国への依存を少なくする、というのは一つのリスク回避の考え方です。一方で、欧州までの輸送を基幹航路による海上輸送のみに依存するのもリスクであることから、シベリア鉄道や中欧班列、中央回廊等複数のルートを維持・確保するのもリスク回避の考え方であると認識しております。
(福山)
牧野様ありがとうございます。要するに、海上輸送依存も陸上輸送依存も問題であり、両方の視点から活用することが重要だというご指摘だと思います。サプライチェーンの危機を経験してきて、それが理解されるようになってきたということだと思います。次に、鈴村様、ご回答お願いいたします。
(鈴村様の回答)
鉄道輸送は海上輸送の代替ではなく、「スピードとコストのバランスを求める中間領域」の貨物に適した手段です。具体的には、①トレンド変化が速くリードタイムが重要な商品(アパレル、スポーツ用品等)、②単価が高く在庫コスト負担が大きい製品(電子部品、自動車・EV部品)、③航空ほどの緊急性はないが船便では遅い「期中追加生産」貨物に有効です。特にインドシナ発では、縫製拠点としての背景から季節性の高いアパレルが主力であり、販売機会損失を防ぐための補充輸送として活用されています。物流面では、海上比でリードタイムを約半減(30〜60日→18〜30日)でき、在庫圧縮によるキャッシュフロー改善が期待できるほか、航空比でCO2排出量が大幅に少なく環境対応にも資します。さらに、海上輸送の遅延や運賃高騰時の代替ルートとしてBCPの観点でも有効であり、「急ぎたいが航空は高い」貨物に対する現実的な選択肢と位置付けられます。
(福山)
牧野様・鈴村様ありがとうございます。グローバル・サプライチェーンの強靭化と多様化を持続可能なものとするためには、鉄道輸送と海上輸送の関係をどう見るか、BCPや運賃の安定性や地政学的リスクなど、どれを中心に見るのかによって、フォワーダーと船社の立場の違いを見ることができます。大変重要なポイントになると思います。鈴村様からのご指摘は、「物流を止めない」ための、鉄道輸送と海上輸送の最適な活用法が重要だということだと思います。それは、船社の「海上輸送を止めない」という思いと同じであると言えます。
◎会場からの質問
(質問1)鈴村様への質問です。中欧班列は、西1通道(ロシア-ベラルーシ-ポーランドルート)を、現在もメインルートとして利用していますが、リスクはないのでしょうか。日系荷主は敬遠していると聞いていますが、安定性についてはどう説明しているのでしょうか。今後、郵船ロジのサービスで西2通道(カスピ海ルート)の検討はされるのでしょうか。
(鈴村様の回答)
ご指摘の通り、西1通道(ロシア・ベラルーシ経由)は現在も主力ルートですが、当社は「リスクがない」とは捉えず、リスクを前提に運用しています。情報は中鉄だけでなく、現地プラットフォーマーや欧州側パートナー、通関業者、実運行データ(遅延頻度・リードタイム等)を基に総合判断しています。荷主には政治的評価ではなく、実績ベースで安定性を説明し、他モード併用や在庫配置を含めた運用を前提に提案しています。日系荷主は慎重なため、BCP用途や限定導入から段階的に活用される傾向です。西2通道(カスピ海ルート)は代替として重要ですが、現時点では補完的位置付けです。安定性確保は各国鉄道や現地パートナーとの連携と実運用データに基づき、複数ルートの組み合わせで担保しています。今日話をお聞きした国交省様の情報も参考にしたいと思います。
(福山)
鈴村様、ご回答ありがとうございます。多くの重要な指摘があったと思います。“複数ルートをどう組み合わせて全体最適化を取るか”というご見解は、これからグローバル・サプライチェーンの強靭化を推進される日系企業にとっては、有益な情報が含まれたご回答だと思います。
(質問2)鈴村様と牧野様への質問です。
甲斐様への質問:YKIPの立場から質問
①ホルムズ海峡の危機に対応し急遽ネットワークを作り上げ、湾内でも急遽輸送を始めたことは、閉じ込められた本船に乗船している船員にサービスを行へという無理な指示と思えるが実際はどうなのか。
②日本から直行便がなくなる傾向について、船社として荷主からどのような声を受けているか教えてほしい。港湾は船社から選ばれる港湾を目指している。船社はどう考えているか。
(甲斐様の回答)
①への回答:たまたまそこに船がいたから利用したということで無理な指示ではない。
②への回答:直行便は荷主にとって必要かもしれないが、運べることが重要。また、荷主と船会社の相性もあり、港湾側からの要望も考慮している。今後コミュニケーションしたい。
(質問3)鈴村様と牧野様への質問です。
①鈴村様への質問:中越班列と中欧班列の利用を日系荷主がやっていることを聞いたことがない。郵船ロジは、中国系や韓国系の荷主を運んでいるのではないか。実態を聞かせてほしい。
②牧野様への質問:カスピ海ルートを活用することは、最終的には中国を利することになるのが不安。どう思われるか。
(鈴村様の回答)
郵船ロジは、元々自動車メーカーとの付き合いが多い。引き合いは結構あるが、成約するのは少ない。コスト面のギャップ、アパレル製品、電子部品が多く、欧州側の荷主からの引き合いが多い。CO2対策等のグリーンソリューションの引き合いが多い。郵船ロジとして、それにこたえられる選択肢を持つことが重要と考えている。
(牧野様の回答)
実証調査の時、外務省からも言われたが、使えるものは使い倒すということでよいということです。
◎オンラインから質問
(質問1)甲斐様への質問です。荷主には、メーカーなどの実荷主もいれば、商社やフォワーダーのような間接的な荷主やNVOCCタイプの荷主もいます。近年のような地政学的リスクが複合的に発生する時期においては、それぞれへの対応の仕方は異なるのでしょうか。例えば、大手NVOCCや大手荷主とは、グローバル・サプライチェーンの再構築、強靭化等については、いろいろなご提案もあったり、パートナーシップを結んだりすることはあるのでしょうか。ある場合は、具体的にどのようなソリューションを提供したりするのでしょうか。現状を教えてください。
(甲斐様の回答)
講演資料にあるように、グローバル・サプライチェーンを構築する主体はものを製造し販売する会社(荷主)です。彼らはサプライチェーンをNVOCC主体で構築するときもあるでしょうし、直接船会社と話しをして構築するときもあるでしょう。船会社はその両方の場合で、グローバル・サプライチェーンの一部を担い、荷主のサプライチェーンの構築に関与します。船会社から積極的に提案する場合、荷主からの依頼が出発点になる場合、NVOCCの依頼が出発点になる場合、さまざまな場合がありますが、どれも対応可能です。「パートナーシップを結ぶか」という質問について。荷主の貨物をコンテナで海上輸送する行為は必ず双方向の協力が必要です。その点で、我々の船に積んでもらっているお客さんとはすべからくパートナーシップを共有していると思っています。
◎モデレーターの総括コメント
(福山)
「グローバル・サプライチェーンの多様化と強靭化」というテーマは、地政学的リスクの下で、「物流を止めない」ために、どのように対策を取るのかということです。代替ルートを探すことになりますが、海上輸送以上に安くて大量に輸送できるモードは、事実上存在しません。しかし、地政学的リスクは、その常識を打ち砕いてしましました。
BCPとして、選択されるルート、モードは、平常時から活用できていないと、非常時には活用できないことが、コロナ禍、ロシアのウクライナ軍事侵攻、紅海でのフーシ派による商船への攻撃、パナマ運河通航制限、ホルムズ海峡の封鎖などの一連の事態を通じて、明らかになってきました。
従って、平常時から、鉄道・トラック・航空輸送を併用することが重要になっています。欧州航路と平時から活用すべきルート・モードとしては、中欧班列とこれを軸として発展する中越班列、中老班列、ASEANエクスプレスなどとの東アジアネットワークの統合的・計画的活用が重要であることが明確になってきました。北米航路でもアフリカ航路でも状況は同じで、MSC様のような船社は、海上輸送を主体にしつつ、グループ内の様々な企業を活用してリスク対応を展開しています。国交省様もこのグローバルな事態への国の支援のために動いており、郵船ロジ様のように新しいネットワークの構築に動くなど、我が国においては、「グローバル・サプライチェーンの多様化と強靭化」が、グリーン化・デジタル化と同時に追求される大きなテーマとなっています。おそらく、この方向にこそ、国際物流の発展の将来性があるものと思われます。
(注)以上の講演の結果概要につきましては、主催者側があくまで速報性を重視して概要を作成したものですので、発言を正確に再現できていない個所、あるいは重要な発言が欠落している箇所等がある可能性があります。
つきましては、発言の詳細や正確な発言を確認したい場合は、必ずYouTubeを視聴してご確認いただくようお願いします。また、本結果概要の無断での転載等は控えていただくようお願いいたします。






