フォーラム・講演会

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第2回JMC&IOPC Fundsによる共催セミナー
「危険・有害物質(HNS)の海上輸送に関連する 損害の責任、賠償・補償に関する国際的動向」

開催概要 温室効果ガスの削減が求められる中、液化天然ガスや新燃料の海上輸送の増加が見込まれています。また海洋環境への関心の高まりを受け、海難事故による海洋への影響を極力小さくすることが求められるようになっています。このような中、有害危険物質の海上輸送にともなう事故により発生した様々な損害(人の死傷、財物への損害、貨物による環境汚染損害など)についての賠償、補償を適正、迅速かつ効果的に行うための国際条約、「2010年の危険物質及び有害物質の海上輸送に関連する損害についての責任並びに損害賠償及び補償に関する国際条約」(2010年HNS条約)の発効が現実味を帯びてきています。この条約は、HNSの海上輸送による損害を補償するための基金を創設することとしており、当該基金の事務局機能は国際油濁補償基金事務局が担うことが想定されています。このたびIOPC基金事務局長の来日に合わせ、2010年HNS条約の概要や発効に向けた動きについて、IOPC基金事務局長に講演していただくとともに、HNSの海上輸送の動向や、HNS関連事故への対応の体制などについても紹介し、意見交換等を行います。
日時 2025年10月8日(水) 13:30 ~ 18:00
開催方法 実開催(YouTube配信あり)
開催場所 丸ビルホール&コンファレンス 7階ホール
主催 公益財団法人 日本海事センター
IOPC Funds(国際油濁補償基金)
後援 国土交通省
開会挨拶

(公財)日本海事センター 会長
宿利 正史

開会挨拶

開会挨拶動画

講演1

IOPC基金事務局長
Gaute Sivertsen 氏

講演資料

講演動画 <日本語訳>

講演2

IOPC基金HNSプロジェクト・マネージャー
Gillian Grant  氏

講演資料

講演動画 <日本語訳>

講演3

国土交通省海事局長 新垣 慶太 氏

講演資料

講演動画

講演4

カナダ運輸省海運政策部長(IOPC基金92年基金総会議長)
François Marier 氏

講演資料

講演動画 <日本語訳>

講演5

ITOPF(国際タンカー船主汚染防止連盟)上席テクニカル・アドバイザー
Andrew Le Masurier 氏

※講演資料は講演者の都合により掲載はございません。

講演動画 <日本語訳>

講演6

(一財)海上災害防止センター理事長
白石 昌己 氏

講演資料

講演動画

パネルディスカッション

東京大学大学院法学政治研究科教授
藤田 友敬 氏

パネルディスカッション動画 <日本語訳>

閉会挨拶

(公財)日本海事センター理事長
平垣内 久隆

閉会挨拶

閉会挨拶動画

フォーラム動画
(通し)
https://www.youtube.com/watch?v=CvqsZZohQtk

当日のプログラム

登壇者 略歴

(公財)日本海事センター会長
宿利 正史

1974年東京大学法学部卒業。1974年4月に運輸省(現:国土交通省)に入省。 運輸大臣秘書官、航空局審議官・監理部長・次長、大臣官房総括審議官、自動車交通局長、総合政策局長、大臣官房長 、国土交通審議官、事務次官を歴任。1984年から1987年まで在インドネシア日本国大使館一等書記官、1991年から1995年まで内閣法制局参事官を務めた。2013年8月から東京大学公共政策大学院客員教授(交通政策)、2014年4月から一般社団法人国際高速鉄道協会(IHRA)理事長、2018年6月から一般財団法人運輸総合研究所会長、2021年6月から公益財団法人日本海事センター会長を務める。

IOPC基金事務局長
Gaute Sivertsen氏

1992年基金総会での選挙で選出され、2022年1月1日にIOPC基金事務局長に就任(任期5年)。
事務局長就任前にはノルウェー貿易産業水産省海運局局長として、海上安全、保安および船員問題に関する海事法規則やノルウェー海事当局のガヴァナンスについて所管していた。
Sivertsen氏は、IOPC基金の業務をフォローし、約30年間、ノルウェーの代表として基金の管理機関の会合に参加。2011年から2021年の10年を超える期間、1992年基金総会議長として、IOPC基金において指導的な役割を果たしてきた。また、約22年間、国際海事機関(IMO)に関係するあらゆる事項の調整を担当した。オスロ大学の法学位を有している。

IOPC基金HNSプロジェクト・マネージャー
Gillian Grant 氏

2024年12月 IOPC基金のHNSプロジェクトマネージャーに就任。2010年HNS条約の発効およびHNS基金の設立に向けた取組みを主導している。
グラント氏は、法廷弁護士・事務弁護士の資格を有し、歴史学、法学、公共行政学の分野で上級学位を有する。
2002年カナダ司法省に入省し、以降さまざまな上級職を歴任。直近では、カナダ運輸省の法律顧問、同国政府の海事法主席専門官として活躍。
2017年から2024年まで、カナダの国際海事機関(IMO)代表代理および在ワシントンD.C.カナダ大使館の運輸担当参事官を務めた。
この間IOPC基金総会等においてカナダの代表として出席し、2019年から2021年には1992年基金理事会の議長を務めた。
また、IMO法律委員会では、2017年から2021年まで副議長、2022年から2024年までは議長を務めた。

国土交通省海事局長
新垣 慶太氏

1991年4月運輸省入省、2007年4月国土交通省近畿運輸局自動車交通部長、2011年10月国土交通省観光庁観光地域振興部観光資源課長、2014年7月国土交通省海事局内航課長、2016年6月国土交通省海上保安庁総務部主計管理官、2018年4月国土交通省航空局安全部安全企画課長、2019年7月海上保安庁総務部政務課長、2020年7月日本政策投資銀行常務執行役員、2022年7月国土交通省航空局次長、2023年6月新関西国際空港株式会社取締役副社長、2025年7月国土交通省海事局長(現職)。

カナダ運輸省海運政策部長(IOPC基金92年基金総会議長)
François Marier氏

カナダ運輸省に25年間勤務。現在は内航・外航海運に関する経済政策を担当。担当範囲には、海運の経済規制、競争・貿易関連問題、賠償責任・補償・保険関係、カボタージュ、米国との二国間海運問題などが含まれる。国際条約の交渉、採択および履行や、国内法および国内規制の策定を担当。海運政策部は、さまざまな国際会議や他国との二国間関係においてカナダを代表する。
国際油濁補償基金(IOPC基金)1992年基金総会議長。2005年からIOPC基金会合に出席し、2022年から2024年まで追加基金総会の議長を務めた。
ローレンシャン大学で地理学学士号、オタワ大学で地理学修士号を取得。

ITOPF(国際タンカー船主汚染防止連盟)上席テクニカル・アドバイザー
Andrew Le Masurier 氏

ITOPFの上席テクニカル・アドバイザーで、代替燃料の第一人者。2019年にITOPFで仕事を始めてから、南米、欧州、アジア、カリブ地域の油濁の数多くの現場に立ち会ってきた。また世界中で油濁やHNS流出対応の準備に関する訓練ワークショップを行ってきた。過去には、Interspill、SpillconやIOSCにおいて代替燃料流出の影響に関して講演した経験があり、P&Iクラブ国際グループの代替燃料作業部会など、代替燃料に関するいくつかの作業部会にメンバーとして積極的にかかわってきた。

(一財)海上災害防止センター理事長
白石 昌己氏

1987年3月海上保安大学校卒業、2013年4月根室海上保安部長、2014年4月国土交通省大臣官房総務課企画官/海事局、2015年4月第十一管区海上保安本部警備救難部長、2016年4月海上保安庁警備救難部警備課室長、2017年4月海上保安庁総務部政務課政策評価広報室長、2018年4月海上保安庁警備救難部管理課長、2020年3月第十管区海上保安本部次長、2020年10月第九管区海上保安本部長、2021年10月海上保安庁警備救難部長、2022年6月海上保安庁海上保安監、2023年7月海上保安庁 退職、2023年10月(一財)海上災害防止センター 理事長(代表理事)(現職)。

東京大学大学院法学政治研究科教授
藤田 友敬氏

東京大学法学部卒業(1988年)、東京大学法学部助手(1988~1991年)、
成蹊大学法学部専任講師・助教授(1991~1998年)、東京大学大学院法学政治学研究科助教授(1998~2004年)を経て現職。
IOPC基金副議長(2009年~)。
著作として、“THE ROTTERDAM RULES: THE UN CONVENTION ON CONTRACTS FOR THE INTERNATIONAL CARRIAGE OF GOODS WHOLLY OR PARTLY BY SEA, 2nd ed." (Sweet & Maxwell, 2020)(Michael Sturley,Gertjan Van der Zielと共著)、『アジア太平洋地域におけるロッテルダム・ルールズ』(商事法務,2014年)〔編著〕、『自動運転と法』(有斐閣,2018年)〔編著〕。

(公財)日本海事センター理事長
平垣内 久隆

1985年東京大学法学部卒業。1985年運輸省(現:国土交通省)に入省。鹿児島県警察本部警務部長、(独)日本政府観光局米州統括事務所代表(ニューヨーク)、国土交通省大臣官房会計課長、航空局航空ネットワーク部長、大臣官房審議官(国際航空・空港コンセッション担当)、航空局次長、内閣官房内閣審議官(内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進事務局 統括官)、内閣府総合海洋政策推進事務局長を務めた。2021年10月に公益財団法人日本海事センター理事長に就任。

第2回JMC&IOPC Fundsによる共催セミナーの開催結果(概要)

開会挨拶(公財)日本海事センター会長 宿利正史

(別添参照)


講演①

シバートセン事務局長からは、IOPC基金の概要と同基金への日本の貢献について、また近年のHNS事故とHNS条約の概要について説明がなされた。


講演②

グラント氏からは、設立が準備されているHNS基金の概要、拠出システム、拠出対象となる貨物を特定するWebサイト(HNSファインダー)、受取人の定義や履行確保の体制に関する説明がなされた。


講演③

新垣国土交通省海事局長からは、日本の海事政策の概要、IMOおよびIOPC基金の場でのルールメイキングに対する日本の貢献が紹介され、IOPC基金事務局に対し、6500種類にも上るHNS条約対象貨物の受取量把握方法やHNS海上輸送に関連する事故の状況につき共有してもらいたいとの提案がなされた。


講演④

マリエ氏からはカナダの事故の経験、カナダがHNS条約の批准に至った経緯、HNS条約の利害関係者の立場について説明がなされた。



講演⑤

ル・マスリエ氏からはITOPFが近年対応したHNSに関する事故について紹介がなされ、HNS事故には通常の油濁事故とは異なる固有の複雑さがある旨説明された。


講演⑤

白石氏からは海上災害防止センターの活動および実際の事故における対応の経験について説明がなされ、多様なHNS貨物の流出事故に対応するための体制を整備していることが紹介された。また、条約が発効した場合には積極的な対応が可能となる点について期待が示された。


その後、東京大学大学院法学政治学研究科の藤田教授をコーディネーターとして、上記の講演者6名によるパネルディスカッションが行われた。議論の概要は以下の通り。


藤田氏)二つ質問がある。一点目はHNSにおいてもIOPC基金と同様、履行確保のための決議が必要となるか。二つ目は仮に日本がHNS条約に加入した場合、どのくらいの負担することになると見込まれているか。


グラント氏)HNS条約は報告をしなければ締約国になれないため、締約国になろうとする国々は義務を深刻に受け止めるだろうと考えている。問題を見て対応するという形になるため、日本にもぜひ入っていただき、一緒に対応を検討してもらいたい。二つ目の質問については、どの国が締約国になるか、どの程度の貨物が拠出対象となるかによって変わるため、正確には申し上げられないが、日本の想定には、ドイツ、オランダなど、これから入ると言っている国がカウントされておらず、日本の想定よりはかなり低くなるだろう。トン当たり0.1か、0.2ユーロくらいではないか。オランダ、ベルギー、スウェーデンのデータは既にあるが現在の総受取量の2倍から3倍になる。基金という保険に入る金額はかなり低いと言えるでしょう。


マリエ氏)96年の条約に締約国のうち数か国しか受取量を報告していなかった。議定書策定の議論では、信頼を確保するため、公正さを確保するために、何かしら制裁、規律が必要であろうと考えられた。そのため議定書では制裁的な規定を取り入れた経緯がある。


藤田氏)IOPC基金は加盟国も多く、未報告が問題になって決議で対応してきているが、HNS条約は1992年の基金条約にはない制裁的な規定を盛り込んでいる。HNS基金は受取量報告を出せないと批准できないこともあり、また批准する国もまだ多くないので、少なくとも発効後しばらくはIOPC基金のような問題は生じないのかもしれない。また日本が参加することには意思決定に参加できるという意義もあるということも理解した。マリエ氏のご報告には利害関係者が批准を支持したというお話があったが、化学業界以外にもこうした理解があったかお伺いしたい。


マリエ氏)様々なセクターの話を聞いた。化学業界は責任あるケアを重視していたので支持していた。カナダは、輸入よりも輸出が多いので日本と状況違うかもしれない。ただし固体ばら積みに関しては扱いが異なっている。石炭、フィッシュミールなど適用のないものもある。肥料は輸入しているが、肥料の輸入者は支持を表明していた。事業によって危険度の理解には差もあったが、最終的には事故のリスクを踏まえ支持してくれた。


藤田氏)日本は輸入が多いので、違う反応もありうるかもしれない。


ル・マスリエ氏)ステークホルダーとのコミュニケーションは極めて重要。


藤田氏)HNS事故は、油濁事故と比較して損害賠償額は大きいといった特徴はあるか。たとえば、口之島の事故はシクロヘキサンを積んでいた船の事故だが、あまり大きな損害は生じていないようである。


ル・マスリエ氏)ケースによって大きく左右されるため一概には言えないが、物質、量、発生場所、潮流などに左右される。リスクとしては船員を中心に人命に対するリスクがある。物質の性質や形状によって対応のしかたが変わるので、船員は訓練が必要になる。また、爆発など局所的でも壊滅的な被害や、人命・健康被害などのリスクがありうる。これまで起きていないが、有害なガスが居住地に到達すると大きな損害が発生する。


藤田氏)HNSのカバーする物質は非常に多く、答えが難しかったと思う。場合によっては、大きな深刻な被害が生じ得ることが理解できたと思う。HNSに関連する事故のうち日本にとって最も深刻なリスク、大規模損害を引き起こすおそれのある事故にはどのようなものがあり得るか。


白石様)HNSについては防除対応、サルベージなど、人命への影響を考えると難しいものがある。特に危惧しているのは、油による火災。海中への流出、漂流は環境や漁業・養殖などへの影響が考えられる。東京湾などの人口密集地近傍で衝突して有毒ガスが大気に放出され、住民の避難が必要になるといったものが一番大きなところではないか。


ル・マスリエ氏)HNSは油と違って浮くとは限らない。溶剤、アンモニアなどが海水に混ざって漂流するリスクがある。大量のHNSが一度に多く流出した場合に何が起こるか今のところデータがない。大学などでの研究を期待している。


マリエ氏)今語られたように、HNSは性質や形状が異なり、油とは異なるインパクトが生じると考えられる。これから最初に準備する必要があるのは請求マニュアル。そこでリスクを定義したり、補償対象を明確にしたりすることになる。防除措置の「合理性」についても検討する。影響も長期にわたる可能性がある。対応する政府、影響を受ける人、船員などへの影響をよく検討する必要がある。


グラント氏)防除費用の裏付けがあることは大きいか、ないと対応に支障があるか。


白石氏)防除対応をする組織として、いつも心配はしていて、裏付けがあるほうがありがたい。原因者がはっきりしていれば、契約を締結できる。そうでなければ、国の指示で防除を進めるが、国が後に原因者に請求したり、場合によっては国が負担するということもある。


ル・マスリエ氏)我々も請求する立場。措置の合理性の有無はよく聞かれる。合理性・比例性があれば対応措置の費用は補償できる。


グラント氏)合理性の確認は重要である。国際的なスキーム、国のスキームがなければ、結局は税金で、ということになる。対応措置には費用がかかり、誰かが負担しなければならない。


藤田氏)条約に加入する意味が少し示されたと思う。


グラント氏)カナダについて聞きたい。例えば批准時に国会議員、政治家などからどのような質問をされたか。


マリエ氏)当時は金額の面や損害の種類などのカバー範囲についてこれで十分かとよく聞かれた。補償限度額を超えるということはあまり想定されなかった。しかし先住民の生活、文化への損害や純粋な環境損害なども対象となるかが懸念されていた。

藤田氏)そのほかにパネリストへの質問があるか。



ル・マスリエ氏)化学業界と連携しているか事故対応に備えた知識共有はどのようにやっているのか。


白石氏)化学業界との関係では、アドバイザリーグループを設け、専門家と情報交換等を行っている。また神戸支所があり、化学系の会社を吸収し、化学物質等の分析ができるようになっている。採水、採泥の分析、安全性確認を行っている。また国際連携業務もあり、東南アジア8か国の民間防除機関と連携し、定期的に会議を行っている。


藤田氏)報告を出した国はどのような困難に直面したか。事務局はどのようなサポートをしたか。


グラント氏)HNSは多岐にわたるので、どこが拠出主体かを把握することが必要。税関当局、業界団体の人達と話す。批准国はどこも報告システム構築に苦労したと思う。一回目に完璧はなく、オランダなどはほぼゼロであった。その後、業界に問い合わせて報告率を上げていった。徐々に改善を進めていけばいいので、完璧主義に陥らずに、まずはこれでよいというところまでやってくれれば十分ではないか。締約国との関係者とつなぐこともできるし、条約上の簡易的なアプローチを使っていただくこともできる。


マリエ氏)全国の業界団体に頼って、影響の有無、ターミナルの所在地、何を荷揚げしているかなどを調査した。ばら積み貨物だけが対象なので、そういうターミナルだけに限定できる。ただし独立系企業のターミナルが難しかったと思う。大きな企業が所有しているターミナルはわかりやすい。輸入する物品のトレンドの変化や新しい物質、ターミナルの競争等によるサプライチェーンの変化などにも対応する必要がある。


藤田氏)油との関係ではサブスタンダード船や付保がきちんとしていない船の事故が問題となっているが、HNSについても同様に発生するのか、起き方や程度などに違いがあるのか。


マリエ氏)近年、とくにここ2年、増えている「ダークフリート」は非常に重大な問題。海運業界全体で取り組むべき問題。カナダ、日本、G7諸国で取り組んでいる。制裁対象国の輸出品が原油であるので、HNS貨物はほとんど見られず、状況は大きく異なる。


グラント氏)対象となる貨物としてLNG、LPGがあるが、安全輸送を徹底しており、油の輸送とは異なると思う。HNS総会で、このような問題に対応できる。保険の問題も、この条約にわざわざ入る国が付保を保証することから、大きな問題になるとは思っていない。


藤田氏)条文の仕組みは極めて似ているが、物質や締約国の違いで抱える問題もかなり違うということと理解した。


フロアからの質問)12か国という発効要件は決して厳しいものではないと思うのだが、2010年に議定書が採択されてから15年が経過したにもかかわらずまだ発効していない。何が発効を妨げているのか。旗国や沿岸国といった関係国や関係者をどう説得することが発効のために有効だと考えるか。


グラント氏)こういった条約については、これまでの経験から、大惨事が起きない限りなかなか進まない。トリーキャニオンがあってCLC/FCがある。エクソン・バルディーズのような大惨事となるような事故は、HNSでは起きていない。しかし、いずれそういう事故は起きる。代替燃料の輸送もあり、有害物質の輸送は今後も増え、リスクも高まっていく。そのための保険には早く入るべきだろう。多くの国が多くの課題を抱える中で、緊急性のある、優先すべき問題ではないと思われていること、そして報告が難しいという問題があると思う。報告については簡易的なアプローチを考案している。


マリエ氏)経済的な条約であるため、国ごとの経済状況を踏まえて対応が変わる。旗国であれば船舶所有者がどのように考えるのかを踏まえる必要がある。日本も旗国としての立場があると思う。環境を守りたいと考える沿岸国は異なった配慮をする可能性がある。また、批准に際して求められる報告のハードルの高さもあり、発効要件である4000万トンという受取貨物量の大きさもある。これら報告の難しさを考えると誰でも入れるわけではないのだと思う。


藤田氏)発効要件は国の数だけでなく、報告された貨物受取量という条件もあるので、厳しい要件が求められていると見ることもできる。にもかかわらず発効しつつあるという側面をみるべきなのかもしれない。


フロアからの質問)バイオ燃料が燃料油や貨物として大量に輸送されているが、これはHNSでカバーされるのか、IOPCでカバーされるのかどちらなのか。


グラント氏)燃料の特性によるが、持続性があれば92年基金やCLC、持続性がないのであればHNSになる可能性が高い。多くはHNSになるのではないか。なお、補足であるが持続性油による損害であっても、HNS条約が人身損害を追加的にカバーしている。


マリエ氏)HNS条約は貨物として輸送されるHNSをカバーするが、燃料として使用されている場合はカバーしない。こちらについてはIMOが検討を始めている。GXを進める中で、バイオ燃料などの代替燃料の輸送が増えるという話があった。GXをサポートするためにも、補償体制がなければ、これ以上はできないという段階が来てしまうと思う。


藤田氏)IMOで代替燃料について、HNS条約を含む既存の条約でカバーされないような事故があるか、あるとすれば新しいレジームを作る必要があるかといった検討が始まったばかりである。


フロアからの質問)貨物の受取量に関する正確な報告がシステムの信任のためには不可欠な反面、正確な報告が難しいという問題があるという話があった。両者のバランスをどのようにとるか。精度向上のプロセスが長くなると、制度への信頼が失われる可能性がある。また、先発の締約国が正確な報告をして、後発の締約国が不正確な報告しかしない場合も考えられるが、それでは不公平感が生じるのではないか。


グラント氏)我々は正確な報告を求めている。正確な報告をした事業者が報告をしていない事業者の穴埋めをするようなことはあってはならないと思っており、監査のスキームを導入することを考えている。正確に報告が行われ、きちんと拠出が行われる必要がある。締約国が検証し、監査することが大事。また、比較的締約国の少ない国々のクラブになると思っており、洗練された少数の国が集まって、相談しながら改善していければと思っている。


藤田氏)海洋環境の保護は、人的要素、技術的要素、そしてそれを支える法制度的な要素が適切に組み合わさることではじめて達成することができます。しかも、1カ国だけで達成できるわけではなく、国際的な協調のもとで行わなければ実現できません。

1969年に油濁損害の賠償のために民事責任条約が採択されて以来、IMOによって、さまざまな国際条約が採択されました。HNS条約も、そのような国際的な賠償・補償のための仕組みの一つ、それも最も大がかりなものであり、長年、その発効が期待されてきたものです。

一般にはあまり広く知られていないことかもしれませんが、HNS条約の成立の過程では、日本は多大な労力を払い、深く関与してきました。1996年の条約採択のための外交会議は3週間に及ぶ長いものでしたが、日本は、関連業界からのオブザーバーを含む44名にも上る世界最大規模の代表団を派遣し、会議に臨みました。2010年の改定議定書の採択においても、準備段階からさまざまな形で関与してきました。その結果、その当時日本が希望した事項の多くがとりいれられる形で条約及び改正議定書は成立しました。

条約成立の過程におけるこのような強い関与、しかも最終的には非常に成功した関与があったにもかかわらず、現在日本国内においてHNS条約の加盟に向けた具体的な動きが見られないということは、やや意外に思われるかもしれません。私が奇異に感じるくらいですから、外国の方からは一層不思議に思われることでしょう。パネルディスカッションでも申し上げましたが、ひょっとすると、その当時、条約交渉に関与された方の多くはすでに引退され、そのうちにHNS条約への理解も関心も薄れていったことが一つの要因かもしれませんが、それだけが原因かどうかは分かりません。 

そういう意味では、HNS条約がいよいよ発効しようとする現在、条約発後には、その運用に深く関与されるであろう方々をお招きして、話を伺うことができたことには大変意義があったと思います。

今後、HNS条約に対する日本のスタンスを検討する上で、このセミナーが関係者の理解に貢献できたことを期待し、本日のパネルディスカッションのむすびとさせて頂きます。

 


閉会挨拶 (公財)日本海事センター理事長 平垣内久隆

(別添参照)


(注)以上の講演の結果概要につきましては、主催者側があくまで速報性を重視して作成したものですので、発言のニュアンス等を正確に再現できていない個所、あるいは重要な発言が欠落している箇所等がある可能性があります。

つきましては、発言の詳細や正確な発言を確認したい場合は必ずYouTubeを視聴してご確認いただくようお願いします。また、本結果概要の無断での転載等は控えていただくようお願いいたします。