第33回海事立国フォーラム in 東京 2024
「海事産業の強化を展望する」
開催概要 | 2021年5月に「海事産業強化法」が公布され、2022年4月から順次施行されている。この法律は、海運・造船・船員といった海事分野の関係者が一体となって成長し日本経済を支えるべく、海事産業基盤の維持・強化を図るものである。また、GHG排出削減といった社会的要請に応えられるよう、船舶を建造する造船業と使用する海運業の双方において投資を促進すると同時に、内航海運の働き方改革を推進するなど、これまでの海事産業政策を踏まえた最善の策として制度設計されている。 今回のフォーラムでは、本法律施行後の進捗状況を確認するとともに、本法律の狙いの具現化のために必要となる、さらなる取組等について意見交換を行い、今後の海事産業の強化を展望する。 |
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日時 | 2024年2月19日(月) 14:00 ~ 18:00 |
開催方法 | 実開催(YouTube配信あり) YouTube視聴用URL: https://www.youtube.com/watch?v=oni_lqyqbYw ※YouTubeで視聴いただく場合は、お申込は不要です |
開会挨拶 | |
基調講演 | |
講演 | |
講演 | |
講演 | |
講演 | |
講演 | |
パネルディスカッション |
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閉会挨拶 | |
フォーラム動画 (通し) |
https://www.youtube.com/watch?v=2HdAVYTWbjA |
第33回海事立国フォーラム in 東京 2024の開催結果(概要)
◆開催日:令和6年2月19日(月)
◆場 所:海運ビル国際ホール 東京都千代田区平河町2-6-4
◆主 催:(公財)日本海事センター
◆後 援:国土交通省
【開会あいさつ】 宿利 正史 (公財)日本海事センター会長
(別添参照)
【基調講演】 海谷 厚志 国土交通省 海事局長
「海事産業の基盤強化に向けて ~現状と課題~」
我が国造船業の事業基盤強化、燃費性能に優れた船舶等の導入等による外航海運業の競争力強化、内航の若手船員の定着に向けた働き方改革、取引環境の改善・生産性の向上などの必要を背景に制定された海事産業強化法の概要について、造船業に係る事業基盤強化計画の認定制度、海運業に係る特定船舶導入計画の認定制度、船員の労務管理の適正化、内航海運の取引環境改善、生産性向上および新技術の導入促進などが説明されました。
また、持続可能な海事産業の実現のための現下の現状と課題につき、
① 外航海運
② 内航海運
③ 造船
④ 船員の確保・育成
について、それぞれ説明が行われました。
① については、日本商船隊の国際競争力及び経済安全保障の確保・維持のため、事業者が先を見通した投資を行える環境整備、日本籍船と外国籍船の競争条件の均一化、世界的に不足している船員の安定的な確保の必要が説明されました。
② については、持続可能な内航海運・旅客船事業の実現のため、事業者が先を見通した投資を行える環境整備、中小零細を多く抱える産業構造改革・生産性向上、将来の内航需要・人口の見通しと船員の確保の必要が説明されました。
③ については、新技術・ゼロエミッション燃料に対応した造船業の実現による内外航の課題解決の下支えのため、船舶産業の変革実現、事業者が先を見通した投資を行える環境整備、深刻化する船舶産業人材不足への対策の必要が説明されました。
④ については、安定的な船員の確保のため、持続可能で時代の変化に対応した船員養成の実施、働き方改革等による魅力向上等を通じた船員の確保の必要性が説明されました。
【講演】 明珍 幸一 (一社)日本船主協会 会長
「海運分野の競争力向上」
我が国経済活動、国民生活、サプライチェーンを支え、日本の経済安全保障および我が国企業の活動や地域経済にも貢献するという海運の使命を果たしていくため、日本商船隊の国際競争力の更なる強化が必要となることが説明されました。
続いて、国際競争力強化に向けて外航海運が取り組むべき課題として、①海運税制のイコールフィティングの必要と海事産業強化法による環境整備の進展、②2050年までの温室効果ガスネットゼロを目指すGXの推進・ゼロエミッション船の導入や代替燃料の供給確保などの取組み、③デジタル技術の活用もよる安全運航の強化などDXの推進、④海事人材の確保・育成のための広報活動などの取組みなどについて説明がありました。
最後に、我が国海運がその使命を果たすには、世界のシーレーン/チョークポイントにおける航行の自由と安全の確保が大前提となることが指摘されました。
【講演】 金花 芳則 (一社)日本造船工業会 会長
「造船分野の競争力向上」
日本の造船・舶用工業は、海運業とともに我が国の海上物流を支える中核的存在であり、多種多様な周辺産業を擁する裾野の広い産業で地域経済の発展及び雇用の確保を牽引するとともに、日本の経済・安全保障の観点からも重要な役割を担っていることが説明されました。
続いて、2050年のGHG排出量実質ゼロを達成するため、同年までに既存船の総取替、および新規船舶のゼロエミッション化など新燃料船等への代替促進を行う必要がある状況から、今後の世界の新造船建造需要は、高いレベルが続くとの見込みが説明されました。
こうしたカーボンニュートラルへの対応により変容する新造船マーケットにおいて、日本造船業は、高いカーボンニュートラル技術を強みとして現状では十分な国際競争力を有しており、増大する需要の取り込みと収益性の向上が可能であるが、そのために大規模な設備投資を通じたスマートファクトリー化の進展が今後必要となることが説明されました。
【講演】 栗林 宏𠮷 日本内航海運組合総連合会 会長
「内航海運の現状と海事産業強化法への対応」
内航海運業界は国内物流の40%を占め、産業基礎物資を多く運搬する重要な輸送モードだが、船舶の約7割が船齢14年以上と老朽化しており、また60歳以上の高齢船員が約27%を占めるなどの課題を現状抱えているとの説明がありました。
続いて、これらの課題に対応した海事産業強化法の施行に対し、内航海運業は、船員の働き方改革の推進や船舶の大型化・組織再編などを含めた業界としての対応を実施するとの説明がありました。さらに、カーボンニュートラルなどの環境対応や少子化に伴う船員不足などの課題の解決のため不可欠となる国や荷主等の更なる協力を目指し、荷主対話等を通じた海上物流の重要性の理解の拡大や人材確保への一層の協力のお願いなども含め、国内物流を支える輸送モードとしての安定輸送の継続の取組みを図っていくとの説明がありました。
【講演】 羽原 敬二 神戸大学 客員教授
「海事産業の基盤強化に向けた海事人材の確保・育成」
海事産業強化法による海事産業の基盤強化が図られる状況のもと、次世代の海事人材確保・育成の促進対策が必要となるとの指摘がありました。具体的には、個々の人材の人生にとってプラスとなる健康で安全な海上労働の実現・船員の働き方改革、女性船員のキャリア実現が可能となる海事社会環境整備、海事人材の流動性を確保するための施策の実施、海事産業を強化する基盤要件として海事産業の強化に向けた新たな海事職種の創生、かかる次世代海事人材の確保・育成基盤として異分野技術を融合したオープンイノベーションやデジタルトランフォーメーションを推進する更なる技術革新を踏まえた新たな人材育成システムの構築、海事データサイエンティストの人材育成などにつき、それぞれ説明がありました。
また将来に向けて必要となる日本の海事産業振興政策につき、海事エンジニアリングの究極技術目標の提示、海事コンサルティング機能の強化と組織構築の必要、日本固有の事情を踏まえたサルベージ機能の強化、造船におけるコスト競争から技術開発競争へのパラダイムシフト、高付加価値型の海事産業振興などについて説明がありました。
そして海事力強化とアジア太平洋地域の海事社会主導体制の構築のため、新たな海事大学システムの設立や、海洋安全保障の確保・充実を目指した人材育成の必要、アジア太平洋地域における国際海事教育訓練機関の創設の必要などが提言されました。
【講演】 大坪 新一郎 (一財)運輸総合研究所特任研究員、東海大学
海洋研究所特任教授(元国土交通省海事局長)
「海事産業の課題と、未来への期待」
海運・造船・船員が一体となって成長し日本経済を支えられるよう産業基盤を維持・強化し、温室効果ガス排出削減などの社会的要請に応えられるよう政策誘導するため制定された海事産業強化法の策定に際し、特に重要と考えていた課題、①日本の海運と造船(舶用含む)は共に成長できるか、②脱炭素化を成長の糧にできるか、③内航は船員不足を克服できるかの3点について、それぞれ説明がありました。
①については、日本海運では海外建造船が増加するなど日本造船との関係性や周辺環境が変化するなか、マンパワーの限られる造船が海運の新たなニーズに合う製品を供給できるようパートナーとしてコンセプト段階から協働できるようにするため、好循環を生む必要な支援措置が用意されたが、依然として残る人的資源の制約から生じる課題の克服のため、海運側の関与・コミットも必要となることが説明されました。
②については、従来は船上での燃料燃焼による排出の減少を目指し、国産エンジンによるゼロエミッション船の開発・実証などの取組みが順調に進められているが、燃料を生産・輸送・船上使用するプロセス全体におけるカーボンニュートラルにおいては、燃料を生産する上流(船の世界の外)における取組みが不可欠となることから、世界中の業界と連携して、エネルギー上流のプレイヤーや各国政府に声を上げることが必要と説明されました。
③については、若者の定着率上昇を目指し、労働環境が多様である内航業界の労働条件を改善するため、内航船の改善が有効であるとして、内航ミライ研究会による型式・システム統一の取組みが紹介されました。
【パネルディスカッション】
モデレーター:杉山 武彦 一橋大学 名誉教授
パネリスト: 各講演者6名
はじめにモデレーターの杉山名誉教授から、各業界の取組みをどう評価するかという視点も加え、これまでの講演を深掘りするとともに、今後の展望について洞察を深めていきたいとの発言がありました。
まず大坪元海事局長から明珍会長に、海運と造船が協働する動きはあるか、そのために造船側で改善してほしいと思われる点は何か質問があり、明珍会長からは、海運と造船の協働は環境対応のLNG船や水素運搬船などで進んでおり、今後はスピード感や造船能力の強化が必要となるとの回答がありました。
さらに大坪元海事局長から金花会長に、船舶の基幹部品の国産化についての取り組み、サプライチェーンの強靭化について質問があり、金花会長からは、コロナ禍においても海外部品・人材には供給リスクの存在が確認されたが、経済安保の観点からも部品の国産化は重要であり、供給を海外に依存する部品についても国産化のための検討を開始しているとの回答がありました。
続いて羽原客員教授から明珍会長に、海運のPRキャンペーンの手ごたえや今後の展開の方針などについて質問があり、明珍会長からは、20~30代をターゲットに海運を知ってもらい人材を確保する取組みを行っているほか、小中学校(教員も含む)への出前授業や施設見学会などの取組みについて回答がありました。
さらに羽原客員教授から栗林会長には、船員の高齢化や若年層の雇用の定着に対応する取組みについて中長期的対応も含めて質問があり、栗林会長からは、国の支援も踏まえ5年を目途に船上での通信環境の改善、奨学金の拠出、地方組合の活動の支援、動画配信やSNSを活用した広報などの取組みを行い船員の確保を進めていくとの回答がありました。
これらの質疑を踏まえ、杉山名誉教授から海谷海事局長にコメントが求められ、海谷海事局長からは、人材の獲得と技術の進歩が2本の柱であり、能登地震でも船と港のマッチングなど海運業の課題が浮き彫りになった中、標準化は人材の問題の解消に繋がる可能性があり、また平成初期の物流コストの削減動向が現在の人材不足に繋がっている可能性も考えられるが、今後は何のために人材を確保するかも考えながら、人材を、単に輸送部門の労働者としてだけでなく海事分野のソフトインフラとして確保していくことを、教育機関の在り方も考えながら検討していく必要があると感じたとの回答がありました。
この後大坪元海事局長から海谷海事局長に、IMO等今後の国際的なルールメイキングに関する取組方針等について質問があり、海谷海事局長から、温室効果ガス排出削減のための経済的手法に関しては日本提案への賛同意見も増えており、日本としては引き続き現実的に実現可能な案をもって、したたかな欧州諸国にも対応していくとの回答がありました。
さらに羽原客員教授からは海谷海事局長に、JMETS改革についてどのような考えを持っているか質問があり、海谷海事局長から、JMETSは複数の期間を統合して誕生した機関であり、転換期としての課題もあるが、市場に求められる船舶も変わっていく状況のもと、効率的な船員養成に向け色々考えていくとの回答がありました。
最後に杉山名誉教授より、明珍会長・金花会長・栗林会長にそれぞれ各業界の展望、今後の取組みについてコメントが求められました。
明珍会長からは、環境対応・海事人材の育成に努めていくとの回答がありました。
金花会長からは、造船事業の復活に向けゼロエミ動向を踏まえた需要に対応していくとの回答がありました。
栗林会長からは、人材確保が喫緊の課題であり新しい環境を整備して人材を確保していくとともに、荷主の理解を求めて丁寧な説明を行っていくとの回答がありました。
最後に海谷局長から、本日頂いた様々なご意見を海事行政に反映していきたいとのコメントがありました。
【閉会あいさつ】
平垣内 久隆(公財)日本海事センター理事長
(注)
本開催結果(概要)は主催者側の責任で速報版としてまとめたものであり、発言を大幅に簡略化し発言の趣旨等が十分に反映されていない箇所や、そもそも発言が欠落している箇所、また発言のニュアンスや語尾等を正確に再現できていない箇所等がありますので、正確な発言の詳細等を確認したい場合は動画を視聴してご確認をお願いします。